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夫婦の心理学

夫婦カウンセリングから見る離婚問題

「私は夫のことを26年間ずうっと恨んでいるんです」
45歳主婦、B子さんの最初の言葉です。

「夫婦のすれ違いが多く、老後を夫と共に暮らしていく自信がありません」
B子さんに限らず、このように訴えてくる女性が増加しています。
平成19年4月から離婚時の年金分割制度が導入されたことも要因の一つでしょう。
2〜3年前から離婚をしたいという主婦の相談が増え始め、
現場にいるカウンセラーは夫婦の生々しく、
そして悲痛な声を矛盾を感じながら聞くことがとても多くなりました。 
現実ここ2〜3年、離婚率が減少しているのは年金制度改正を控え
女性が離婚待機をしているという指摘もあります。

子供が高熱入院したときの夫の一言
B子さんは結婚3年目にして夫に対して不信を持ち始めました。
子供が3歳の時に急に高熱を出したため、あわてて救急病院にかけつけました。
子供が入院することになり、B子さんは動揺する気持ちを抑えながら
自宅で子供の入院準備のためコマゴマした物をバッグに詰め込んでいました。
そこへ「ただいま」という頼もしい夫の声。
すがる気持ちで経過を説明しました。
子供を心配する気持ちが先に立ち夫に対して手短すぎてしまったかなと思いつつ
車のキーとバッグを片手に玄関を出ようとしたB子さんの後ろ姿に
「ところでオレのメシは?」という言葉がのしかかってきました。

これに対する女性の意見
・子供のことなど全く心配なんてしていない。自分勝手な言動だ。
・食事くらい自分で用意できないのだろうか。
・「妻は家事をしっかりしてくれればよい」という
依存的な夫の考え方が見え隠れしている。
・いたわりの心情がない。
・専制君主的、暴君の象徴的な言葉。
・このような言葉を言う夫は妻を使用人としてしかみていないのではないか。
・父親としての自覚がない

男性の意見
・妻子に対して思いやりがない訳ではない。妻の話を十分聞いて
納得した上での言葉だと思う。
・つまり、お腹がすいているので冷蔵庫に何か入っているのか、
それとも外食をすればよいのかそれを聞いているだけのこと。
ひとりで食事をとることの不平ではない。
・一方的に「思いやりがない夫」と決め付けること自体が妻の甘えだ。
・お互いの役割を認識していないだけではないか。

B子さんは夫の言葉を背に、無言で一路病院へ向かいました。
車中、子供の様子が気になりながらも
夫に見捨てられたようで悔しさがこみあげてきました。
子供が退院する一週間、夫は残業を差し控え、毎日見舞いに来ました。
面会時間終了まで子供のそばで色々な話をする夫に対して
なぜかB子さんの視線は冷たく、口数も少なくなったのです。
B子さんは「家族愛のない自己中心的な夫」というレッテルを貼ってしまいました。
それ以来、夫婦の修復をする手段もなく淡々と日々を過ごしてきました。
現在2人の子供たちは成人を過ぎ、自立をして家を出ています。
そこに最近「年金改正のニュース」を耳にし、
「離婚をしたい」という気持ちがますます現実感を持ちはじめました。

B子さんの計画は
@退職金の半額をもらう。
A自活するために夫の年金と何か資格をとる。
B長男と同居するためにマンション購入の頭金として
夫が定年をむかえるまでへそくりを増やす、です。


愛ある結婚とは何かを考えていく
このようなことを考えているB子さんに1つの質問をしました。
「あなたの計画が全てうまくいかなかったと仮定したらどうしますか」
しばらく考えてB子さんは「そうですね。離婚は無理です」と答えました。
理由は自活できないということです。
そこでB子さんの離婚をしたいと考え始めた原因が
26年前の夫の一言「ところでオレのメシは?」に端を発していることを確認し、
「愛ある結婚」とは何かを一緒に考えていくように提案しました。
B子さんの計画性の幼稚さ、思い込みの強さ、感情的な言動が目についたからです。
カウンセラーはクライアントの望む方向性のみ援助するだけではありません。
離婚することがクライアントの精神的成長を促すことができるのであれば
様々な面でサポートをしていきます。
しかし、このケースは夫婦のあり方をもう一度、
見直していく「夫婦カウンセリング」の場への経験を経てから
夫婦で結論を導き出していくようにしました。

月2回の夫婦カウンセリングが6カ月と
月1回B子さんだけのカウンセリングを平行して8カ月続けました。
B子さんは夫の言葉に傷ついた気持ちを口に出すのに時間はかかりませんでした。
それは夫に「離婚を考えているのでカウンセリングを一緒に受けてほしい」と伝えたからです。
夫はうろたえ、何が原因か、自分のどこが悪かったのか教えてほしいと懇願したからです。
狼狽する夫の態度にB子さんは驚き意外な気持ちとともに冷静にもなったようです。
夫はB子さんに対して誤解を解くため自分の性格、
会社での立場、家族に対しての想い、
妻の支えがあって乗り越えてきた事実をカウンセリングの度に訴えてきました。

恋に破れた少女の心情
B子さんに夫に対する印象を聴くと
「言い訳を言っているだけで私を本当に愛しているとは思えない。」
そして挙句に「お金がおしくなっただけでしょ」と語りました。
私は夫の誠意ある言葉を無視し続けるB子さんに
「恋に破れた少女の心情」があることに気づきました。
結婚当初は恋に夢中になっている状態で、感情が優先し、
相手から得られるものだけに集中していきます。
「恋は盲目」ということですね。
恍惚感は快楽でありB子さんの世界は夫からのプレゼント
(自分が期待していることをしてもらう)があることが
イコール愛されているという考え方を持っていました。
まさに自分を成長させてくれるのは夫の役割であるかのように確信していたのです。

なぜ人は結婚し失望するのか
人は、お互いのメリットを感じて(惹かれて)結婚するのではないでしょうか。
例1彼は誠実でやさしい。だから私は彼と付き合うと、
私の言うことを聞いてくれるだろうし、とても気分がいい。
例2彼女は美人で倹約家で贅沢をしない。
だから付き合うとお金もかからないし、貯金ができる。

例えばこのようなメリットを感じている二人がいます。
無意識にですが。
「恋に落ちた」ときは、このような状態がベースにあります。
そして一日中彼、彼女のことが頭から離れず一瞬たりとも離れたくないのです。
先の先輩達の忠告など耳にはいるはずがありません。
やっぱり念願の結婚へゴールインしていきます。
現実 例1の場合、誠実で優しいはずの夫が残業で連日遅くなり
家事を手伝うことも肩もみもグチも聞いてくれなくなってしまい、
こんな人だったとは・・・。

例2の場合 彼女は家計簿をつけ、一円でも安いスーパーへ出かけ、
せっせと貯金をし当然夫のお小遣いにもチェックが入り余計なお金など渡しません。
部下との付き合いもできず、同僚との飲み会にも参加できなくなってきました。
こんな人だったとは・・・。

「夫婦カウンセリング」
恋が冷めるのは現実例のようにお互いのメリットがなくなるからです。
ここで「離婚」という2文字が浮かびます。
B子さんは恋が冷め夫のメリットがなくなりました。
しかし、だからといって即、離婚への準備をはじめればいいというわけではありません。
まずはじめに恋をリセットする必要性があります。
本当の愛はここから始まるからです。
お互いをメリットのある存在として捉えるのではなく
お互いが精神的成長を目指していくためのカウンセリングがスタートしました。
精神的成長をするためには本当の愛を得るためには「強い意志と努力」が必要になってきます。
日本の男性は夫婦でのカウンセリングを極端に避ける傾向が強いようです。
「男は弱音をはいてはいけない」という強い概念があるからでしょうか。
この概念を持っていると、「強く頼もしい男が女性から好感度の高い男だ」という錯覚をしてしまい、
それと引き換えに我慢するストレスと人間の素直な感情喪失と
人の気持ちを理解できないというおまけまでついてきてしまい、
とてもお勧めできません。

B子さんの夫も結婚当初はこのようなタイプだったようです。
定年間際に突然退職金と年金の半額を請求されてしまう羽目になってしまうなんて
考えたくもないですよね。
それこそ「アンビリーバブル」です。

離婚を踏み留めさせた夫の一言
B子さんはカウンセリングの経過とともに離婚の決意がゆれてきました。
夫にある言葉を期待するようになったのです。
夫婦カウンセリングが終結に向かう頃、B子さんは離婚を取り下げ、
夫と共に老後を暮らしていく決心をしました。
「ごめんな。こんなに辛い想いしていたことを知らなかった」
B子さんは、この言葉を待っていたのです。
「ところでオレのメシは?」で傷つき、「ごめんな!!」で復活したのです。
言葉は魔物ですね。
B子さんと夫との人生を二分してしまうのですから
言葉でのコミュニケーションを大切にしたいものです。

ある講座で「カワ、という漢字を書いてください」と
受講されている方に言ったところ
「川」と「河」と「皮」とそれぞれ書いていました。
それぞれの方は「カワ」と言う音でイメージ化し(右脳)
そしてそれぞれ意味の持つ漢字(左脳)にしたのです。
「川」「河」「皮」と書いたそれぞれの人は一瞬にして
「カワ」にまつわるイメージ(小川なのか大河なのか皮膚なのか)
いずれにしてもその人にしか知り得ない「カワ」にまつわるイメージを型にしたのです。

人間は本当に個です。
B子さん、夫は「カワ」と聞いて、どのような漢字を書くのでしょう。
二人で書いた漢字を前にどんなイメージで書いたのか、
ぜひ「言葉」でコミュニケーションをし、楽しい老後を送ってほしいと切に願います。

「離婚」という二文字が頭に浮かんだときこそ、
二人の新しい愛が始まる




(『共済と保険』2007年より)



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